クーセヴィツキー/ブラームス:交響曲第1番/ボストン交響楽団 1945年録音

ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 Op.68

セルゲイ・クーセヴィツキー指揮 ボストン交響楽団 1945年2月17日録音

これは第2次大戦末期であり、戦争の帰趨はすでに見え始めているものの未だに犠牲者の数も増えていくという中での演奏会です。優秀な録音エンジニアも払拭し、さらにはライブ録音と言うことで、そのクオリティはあまり芳しくありません。
有り体に言えば、ドア一枚を隔てて聞いているような雰囲気なのですが、それでも聞き進むうちにそう言うことは次第に耳が慣れてくるものです。ですから、多少の不満は感じつつも、この上もなく引き締まったクーセヴィツキーの棒によるブラームスを楽しむことは出来ます。

不思議だなと思うのは、こういう戦時下になると録音のクオリティは優秀なエンジニアがいなくなることで低下するのですが、演奏そのものクオリティはあまり変化がないことです。
どうやら、音楽家というのは戦時体制下では「優遇」されるようで、兵隊として駆り出されるよりは音楽を演奏する方がお国のためになると判断される存在だったようです。ですから、このような戦時下にあっても、オーケストラの機能はそれほど低下はしていないようです。

それともう一つ面白いと思うのは、エロイカの時に感じたことなのですが、クーセヴィツキーは何故か前半の3楽章はザッハリヒカイトに徹して造形しておきながら、最終楽章にはいると結構あれこれと手練手管を使っていることです。ここでも最初はぐっとテンポを落とすのですが、あの有名なテーマが登場すると再びもとのテンポに戻ります。そして、その後はそのテンポを基本的には維持しながら快調に音楽を進めているのですが、よく聞いてみれば微妙にテンポを動かして、最後のクライマックスをより効果的なものにしようとしてしていることに気づかされます。

おそらくは、最後の楽章に力を投入すればもっとも演奏効果が高いという劇場的判断があったのかもしれないのですが、それはクーセヴィツキーという指揮者の思わぬ一面かもしれません。