クーセヴィツキー/ベートーベン:「エロイカ」/1945年録音

ベートーベン:交響曲第3番 変ホ長調 作品55「英雄」

セルゲイ・クーセヴィツキー指揮 ボストン交響楽団 1945年10月29-30日録音

1945年10月29-30日の録音ですから、まさに第2次大戦が終了して間もない頃の演奏です。
実に立派な「エロイカ」であって、それはこの時代のアメリカのクラシック音楽家に君臨していたトスカニーニ流のザッハリヒカイトな演奏その物です。
しかし、クーセヴィツキーほどの指揮者にしては、そのままで終わっては、立派であっても今ひとつ物足りないなと思っていると、最終楽章でやってくれていました。

おそらく、クラシック音楽というものをそれなりに聞き込んでいる人ならば、この最終楽章に入った途端に軽い違和感を覚えるはずです。
何故ならば、先立つ3楽章のテンポ設定から言えば微妙に遅いテンポ設定で音楽が始まるからです。
しかし、クーセヴィツキーがこの最終楽章においてその様なテンポ設定を取った理由はすぐに了解できます。それは、そこまでは音楽は縦割りだというスタイルですすめてきたものを、この最終楽章では明らかに横への流れを重視したものに変わっているからです。
おそらく、この巨大な変奏曲にとっては、その方が相応しいと考えたのでしょう。

そして、驚くのは、音楽が進むにつれて少しずつテンポがずり下がっていくように感じるのです。
音楽のフィナーレに向かって少しずつテンポをずり上げていって「効果」を狙うというのは時々耳にするのですが、ずり下げていくというのはあまり記憶にありません。
その辺りは、なんだかクナパーツブッシュの「好き勝手」を連想させて、実に愉快です。