ラフマニノフ&クライスラー/シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ, D.574/1928年録音

シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ 第5番 イ長調 Op.162,D.574

(P)セルゲイ・ラフマニノフ (Vn)フリッツ・クライスラー 1928年12月20日~21日録音

こういう録音を聞かされてしまうと、この後の時代の演奏家は室内楽作品というものを出来る限り素っ気なく、出来る限り退屈に、そして、出来る限りつまらなく演奏するように努めてきたのではないかという「疑惑」がわきおこってきます。(^^;
それはまあ冗談としても、それでもこの頃のクライスラーは絶頂期だったのでしょうか、それこ若きシューベルトのほのかな憧れや不安、そして物思いに沈む姿を目の前に見るかのような描き出していきます。
そして、それを枠の中で自由にさせるラフマニノフの安定感!!

この頃には、こういう演奏を聞いて様式的にどうとかこうとかケチをつけるような評論家もいなかったのでしょう。
いや、いたかもしれませんが、そんな事をクライスラーもラフマニノフも全く気にもしなかったはずです。歯牙にもかけない、と言う奴でしょうね。

それとくらべれ、コンクールあがりの演奏家などというのは出来る限りケチがつけられないような最大公約数的な演奏しかできないので、聞くものの心が躍るはずもないのです。
芸というものは、どうだこれは面白いだろう、こんなのも凄いだろう!!と加点していくから面白いのであって、ひたすら減点を恐れた縮こまった姿勢ではどうしようもありません。

ですから、若い演奏家の人こそ、こういう演奏を聞いて欲しいものだと思います。
もっとも、こんな事をやっているとコンクールの一次予選も通らないかもしれませんが・・・。

それから、この作品は今は「ニ重ソナタ イ長調 Op. 162, D. 574」もしくは「ヴァイオリン・ソナタ 第4番 イ長調 Op.162,D.574」と言われるのが一般的です。
ただし、この音源にしたボックス盤には「ヴァイオリン・ソナタ 第5番」となっていたので、それを採用しました。

20世紀の初め頃にはこれは「ヴァイオリン・ソナタ 第5番」とよばれていたようで、50年代に復刻されたレコードにも「Sonata No. 5 In A, Op. 162」と記されているようです。