ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲/ストコフスキー指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1934年録音

ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43

(P)セルゲイ・ラフマニノフ レオポルド・ストコフスキー指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1934年12月20日録音

この作品は1934年6月3日に作曲が開始され、同年8月18日に仕上げられています。そして、初演は全く同じ顔合わせ(セルゲイ・ラフマニノフ&レオポルド・ストコフスキー)でこの年の11月17日にボルチモアで行われています。
この録音はその初演から1ヶ月後のものですから、いろいろな意味でまさに出たてのほやほやの演奏と録音です。

しかしながら、この作品の初演は多くの聴衆に熱狂的に迎えられたものの、専門家筋の評価は「あらゆる意味で、重要な作品ではない(「ミュージカル・クーリエ」誌)」というような否定的なものでした。
ただし、そのような否定的なコメントはラフマニノフの作品についてはしばしば見受けられるもので、翌年にはさらに酷い批評もありました。

昨夜、多くの人を驚かせたのは、遠い昔の優れた知恵のお告げ人のような男から、彼がオーケストラと演奏するために選んだ曲の、明敏で、リスト風の華やかさをもち、かつ全くのいたずらのような作品が出て来たことであった。そして、その「パガニーニの主題による狂詩曲」は、去年作曲されたばかりなのだ。(「ミネアポリス・スター」紙)

また、ピアニストとしてのラフマニノフに対しても「過去に比べて彼のテクニックにはやや陰りが感じられる」いう厳しいものが多かったようです。
今の耳からしても、これで翳りが見られるというのならば、ほとんど全てのピアニストはピアノの蓋を閉じて、今すぐハローワークに出かけて新しい職探しをする必要があります。

しかし、こういう厳しい評価を常に浴びせかけられているラフマニノフに対して、後押しと救いの手をさしのべたのは素朴な聞き手達でした。
そして、どれほど否定的な評価を下す専門家であっても、そう言う聞き手達に関しては次のように述べざるを得なかったのです。

コンサートのあと、カーネギー・ホールを出た聴衆たちは、ひとつの忘れることのできない経験、つまり、作曲家であり、そしてピアニストであるセルゲイ・ラフマニノフの演奏を口々にしていた。・・・彼の人格ゆえか、あるいは圧倒的なピアノの演奏の質によるか、いずれにしても、コンサートの頂点はラフマニノフであった。(「ニューヨーク・タイムス」紙)

真実は常に邪悪さの中にではなくて、無垢なる素朴さの中にひそんでいるのでしょう。