メンゲルベルク/スッペ:「詩人と農夫」序曲/コンセルトヘボウ管弦楽 1932年録音

スッペ:「詩人と農夫」序曲

ウィレム・メンゲルベルク 指揮 コンセルトヘボウ管弦楽団 1932年5月11日録音

ある方からいただいたコメントをお借りすれば「小曲はその短い中で仕上がっているだけに演奏する側の力量もハッキリ出る」と言えます。そして、その力量というのは交響曲のような大曲を演奏するときの力量とはまた違う面があるようです。
それは、最初の一瞬において作品が持っている世界に聞き手を誘っていく能力と言っていいのかもしれません。

そう言えば、藤圭子やちあきなおみなどという歌い手は、そう言う世界に聞き手を引きずり込む術に長けていました。
「15,16,17と私の人生暗かった」とか「いつも様に幕が開き恋の歌歌う私に」と歌い出すだけで、そこに全く新しい世界を描き出す力を持っていました。そして、そう言う歌い手もまたほとんど亡んでしまったように思えるのです。

おそらく、今の偉い指揮者なんかはスッペの「詩人と農夫」みたいな作品は馬鹿にして見向きもしないでしょう。
そして、ここでもまた演歌の世界と同じように、メンゲルベルクのように演奏できる指揮者はもう一人もいないことは確かです。

メンゲルベルクという人の音楽を今という時代に聞くという行為は、ひたすら楽譜に忠実に、そして、作曲家の意志に忠実に従うことこそが絶対に正しいのだと信じて突っ走ってきた先の世界の価値を問い直すことなのでしょう。
もちろん、それで良かったという人もいれば、いやいや、味気ない世の中になったものだとぼやく人もいるでしょう。

どちらが正しいかなどという論議は不毛ではあるのですが、しかし、クラシック音楽と言えども芸の世界である以上は、とても大切な片側の世界を失ってしまっていることだけは否定できないようです。