メンゲルベルク/ベートーベン:エロイカ/ニューヨーク・フィルハーモニック 1930年録音

ベートーベン:交響曲第3番変ホ長調 作品55「英雄」

ウィレム・メンゲルベルク 指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック 1930年1月4日&9日録音

メンゲルベルクのベートーベンと言えば1940年に実施したチクルスが代表盤だと思われます。
ところが、「エロイカ」だけが録音時に何らかの事故があったとしか思えないような音質でした。これはもう、実に残念至極なことだったのですが、この30年にニューヨークフィルと録音したものはその「残念」を補ってあまりあるほどの優れものです。

最近、30年代のスタジオ録音のクオリティの高さに驚き、そして「感動」することがあります。(コルトーのショパンなど!!)
これは「感動」するほどのレベルとはいえないかもしれませんが、メンゲルベルクの芸を味わうには十分のクオリティをもっています。

メンゲルベルグという人は二つの顔を持っていた様に見えます)

一つはポルタメントを多用して濃厚な表情をつけ、テンポも大きく揺らして演奏するメンゲルベルグです。
もう一つは、早めのテンポをしっかりと維持しながら、強めにアタックをつけて迫力満点に演奏をするメンゲルベルグです。

「崩しの達人」のように言われるメンゲルベルグなのですが、実際に聞いてみると後者のような演奏の方が多いことに気づかされます。
そして、この30年録音の得オリカはその二つの要素が絶妙な形で融合しています。

29年録音のエーリッヒ・クライバーの「新世界より」も同様だったのですが、この時代のマエストロ達の音楽性の高さには驚かされます。
そして、彼らと同時代のマエストロの多くが戦後すぐの時期にこの世を去ってしまうと、このような音楽をやれる人は一人もいなくなってしまったのです。

パチパチノイズがあればそれだけで拒絶反応を示す人もいるかと思うのですが、騙されたと思って、是非とも最後まで聞き通していただければと思います。