ワーグナー:楽劇「ジークフリート」より「森のささやき」
ウィレム・メンゲルベルク 指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック 1928年12月14日録音
こんなワーグナーが存在するというのは信じがたい思いがしたものです。
なんだかぶつぶつと何かを呟くようにして音楽が始まるところからして、他では絶対に聞けないワーグナーです。そして、その森の囁きの中で父母への思いにひたりながら鳴り響く音楽の何と美しいこと。
なるほど、これこそがコンセルトヘボウの響きだと思ったのですが、念のためにクレジットを確認してみるとオーケストラはニューヨーク・フィルでした。
これはもう、驚いてしまいます。
メンゲルベルクという指揮者はオケがニューヨークの時は別人のように直線的な音楽をやるものと思っていたのですが、そんな簡単な決めつけをせせら笑うかのような滴るような美しさに満ちた弦の響きを引き出しているのです。
おそらく、これほど美しく、そして切なくワーグナーを描ききった指揮者は他にはいないでしょう。