アドルフ・ブッシュ/ブランデンブルク協奏曲第1番/ブッシュ・チェンバー・プレイヤーズ

J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲第1番 ヘ長調 BWV1046

アドルフ・ブッシュ指揮 (Hr)Aubrey Brain,Francis Bradley (Oboe)Evelyn Rothwel,Natalie Caine,Joy Boughton (bassoon)Paul Draper ブッシュ・チェンバー・プレイヤーズ 1935年9月9日~17日録音

戦前の古い録音を辿っているとどうしてもナチスとどのように関わったのかと言うことは避けては通れません。それは、芸術と政治は別だろうと言う、一見すれば正当に思える主張などを吹っ飛ばしてしまうほどの出来事だったからです。
おそらく、ナチスほど政治的目的を実現するために芸術を利用した集団はいないでしょう。そして、困ってしまうのは、その政治が目的とした現実が、戦後のドイツ政府でさえ「永遠に国際社会から許してもらえなくても仕方がない」と言わざるを得ないほどの酷いものだったと言うことです。
ですから、ナチス支配下のドイツに留まって純粋に芸術活動を行っただけだという主張は、客観的に見れば、非人道的という言葉でさえも足りないナチスの行いに消極的であっても荷担したことを自白するようなものなのです。
ですから、そのままドイツに残ろうと思えば残れた立場であるにもかかわらず、ユダヤ人の排斥を隠そうともしないナチスの振る舞いに抗議の意志を示して亡命を決意したドイツ人芸術家がいたことは、民族としての道義をギリギリのところで守ったとも言えるのです。

しかし、その様な存在は戦後のドイツにおいてはこの上もなく目障りな存在になったことも事実です。
何故ならば、民族としての道義を辛うじて担保した彼らの振る舞いは、そのままドイツに残った己の不甲斐なさ、さらに言えばより積極的に犯してしまった自らの犯罪的行いを照らし出す存在となるからです。

言うでもなく、アドルフ・ブッシュこそは輝けるドイツを代表する純粋アーリア人のヴァイオリニストでした。
しかし、彼の娘婿であるルドルフ・ゼルキン、さらには弦楽四重奏団の仲間はユダヤ人でした。彼らとの縁を切ってドイツに残れば輝かしい地位が約束されていたのですが、彼は仲間を選び、1935年にスイスに亡命します。

おそらく、このブランデンブルグ協奏曲の録音はスイス亡命後のものだと思われるのですが、まさにヨーロッパを代表するソリストを糾合した録音となっています。
ちなみに、ホルンのオーブリー・ブラインはかの有名なデニス・ブレインの父親ですし、オーボエのイブリン・ロズウェルは後にバルビローリの妻となった人物です。ロズウェルは男社会だったオーケストラへと切り込んでいった最初の女性奏者でした。

そして、その様な名だたるソリストを集めてこの録音を敢行したのはブッシュの強い意志に基づくのだったはずです。
それは疑いもなく、ナチス支配下にある「輝けるドイツ芸術」への異議申し立てであったに違いないのです。


«
»

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です