エーリヒ・クライバー/美しく青きドナウ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

ヨハン・シュトラウス2世:ワルツ「美しく青きドナウ」 op.314

エーリヒ・クライバー指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1931年録音

奇蹟のような一枚の写真があります。とても有名な一枚なのですが、「Photo by Erich Auerbach, 1929」というクレジットがついています。

Photo by Erich Auerbach, 1929

Erich Auerbach(エーリヒ・アウエルバッハ)はドイツ出身のユダヤ人で著名な文芸評論家だった人物であり、彼もまたナチス政権下で迫害を受けて亡命を余儀なくされた一人です。
エーリヒにはユダヤ人の友人が多かったそうですから、ファーストネームが同じと言うこともあってそう言う友人の一人だったのかも知れません。

それにしても凄い一枚です。
言うまでもないでしょうが、左から順番にブルーノ・ワルター、アルトゥーロ・トスカニーニ、エーリヒ・クライバー、オットー・クレンペラー、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーです。

この時、トスカニーニが一番年長で62歳、次いでワルターが51歳、クレンペラーとフルトヴェングラーが44歳と43歳でした。そして、エーリヒが一番年少でこの時39歳です。
まさに、この時代を代表する偉大な指揮者のなかに交じって、眼光鋭くおさまっているエーリヒからは並々ならぬ自信と気迫が伝わってきます。決して位負けはしていません。

そして、その自信とはヨーロッパの伝統はしっかりと継承しながら、20世紀という新しい時代を切り開いていくうえで求められる能力が己の中に満ちあふれている事への自信だったはずです。
ですから、、エーリヒはベルリンの歌劇場のシェフに収まると、伝統的なモーツァルトやベートーヴェンなどのオペラも大切にしながら、新進気鋭のベルクやヤナーチェクのオペラ作品なども取り上げていくようになるのです。

そして、その事は自らの演奏スタイルをも変えていくことにもつながったようです。
とは言え、今の耳からすれば、この「美しく青きドナウ」 もかなり古いスタイルのものだと聞こえてしまうのですが、1923年に録音した「美しく青きドナウ」 と較べれば全く別人の手になるかのような演奏であることは間違いありません。

そして、その影響を受けたのはこの写真の中で言えばトスカニーニであり、クレンペラーだったのかも知れません。
少なくとも、これから自分が目指すべき音楽のスタイルの範をフルトヴェングラーやワルターに求めなかったことは明らかです。

歴史というものはあるポイントで起こった一つの点だけを見ていたのではその本質を見誤ってしまいます。
このエーリヒの31年録音の「美しき青きドナウ」もこれだけ聞いていたのではなんだか古いスタイルの演奏だと言うことで終わってしまうかも知れません。
しかし、1923年録音の「美しき青きドナウ」というもう一つの点を見つけ出して、その二つの点を結んでみれば景色は一変してしまうはずです。


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