エルネスト・アンセルメ/モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」/スイス・ロマンド管弦楽団

モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 K. 551 「ジュピター」

エルネスト・アンセルメ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団 1942年録音

ヒトラーがスイスを敵視した最大の理由はスイス国内に在住する大量のユダヤ人の存在であり、さらには第2次大戦の勃発によってスイスがさらに大量のユダヤ人難民を受け容れたからでした。
さらには、ユダヤ人ではないけれども「反ナチス」のために迫害を受けた人々も大量に受け容れたこともヒトラーにとっては許し難いことだったのでしょう。

ヒトラーがスイスのことを「もっとも卑しむべき下劣な国民、新ドイツの敵」と罵倒したのにはその様な背景があります。

しかし、それだけにスイスが「中立」の立場を守り続けるのは大変なことであり、女性も含めた多数の国民を動員し続ける事には限界がありました。
そして、ヒトラーは東部戦線でソ連に敗れると、その矛先をスイスに向けるようになるのですが、それに対してスイスは少しずつドイツに対して融和的な「中立」の立場へと転換していくことになります。

確かに、スイスは多くのユダヤ人難民を受け容れたのですが、戦争が終わってみればそれと同じくらいの難民の受け入れを拒否していたのです。
さらに、ユダヤ人から没収した財産がナチスの隠し資金になっていたのですが、それを受け容れていたのがスイス銀行を中心としたスイスの金融機関であったことも後に明らかになっていきます。

スイスは絶対に降伏しないという「硬」の対応だけでなく、時には融和的な「軟」の対応によって中立による平和を守り抜いたのです。
それを穢いと言えば穢いのでしょうが、それもまた「綺麗事」だけでは平和は守れないことを今の私たちに教えてくれるようです。

この「ジュピター」も「ト短調シンフォニー」と同じく「Decca」による録音です。
ただし、こちらはト短調シンフォニーとは違ってアンサンブルの乱れもそれほど気にならず、実に気合いの入った演奏になっています。

録音のクレジットは両方ともに「1942年10月」となっているのでどちらが先に録音されたのかは確認できませんでしたが、おそらくは「ト短調シンフォニー」の不甲斐なさにアンセルメが気合いを入れ直したのかも知れません。