ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲
カール・ベーム指揮 (P)ヴィルヘルム・バックハウス シュターツカペレ・ドレスデン 1938年録音
「シュターツカペレ・ドレスデン」は時代に伴ってその名称が何度も変わってきています。
古いレコードなどでは、「ザクセン国立歌劇場管弦楽団」と記されているものに出会いますし、東ドイツ時代はほぼ「ドレスデン国立歌劇場管弦楽団」が一般的でした。
しかし、オーケストラの本拠である歌劇場がドイツ統一に伴って州立の歌劇場となって「ゼンパー・オーパー」と呼ばれるようになると、「ドレスデン・シュターツカペレ」と呼ばれるようになり、現在では「シュターツカペレ・ドレスデン」でほぼ統一されてきたようです。
このオーケストラの特徴と言えば、絹の織物を思わせるような柔らかくてふんわりとした響きの美しさが連想されます。
そういえば、このオケの首席指揮者をつとめていたこともあるリヒャルト・ワーグナーは「奇蹟のハープ」と呼びました。
ですから、このオーケストラは昔から響きの美しいオケであることは衆目の一致するところだったのですが、こういう古い録音を聞き直してみると、その「美しさ」の質は時代によって随分と異なっていたことに気づかされます。
ベームはこの素晴らしいオーケストラの音楽監督に1934年、彼が40才の時に就任するのですが、そこは音楽を行う上での最良の環境だと述べています。そして、彼がナチスに対して迎合的な姿勢を取ったのは、この環境を失いたくなかったからだとも述べていました。
しかし、そのベームのもとで奏でる「シュターツカペレ・ドレスデン」の響きは、後年の柔らかかくてふんわりとした響きとは随分と異なっています。
もちろん響きの美しさはあるのですが、そこにゲルマン的な力強さも色濃く滲ませています。さらに、音楽監督となったベームのトレーニングによって、この時代のオケとしては驚くほどに高い機能性を持ったオケに仕上がっています。
なるほど、これを失いたくなかったというベームの気持ちも分からないではありません。
そして、こういう古い録音を聞く楽しみの一つは、そんな時の流れの中に浮き沈みする「あれこれの事」に気づけるところにあるのだと思います。