ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 作品37
カール・ベーム指揮 (P)リュブカ・コレッサ シュターツカペレ・ドレスデン 1939年録音
ベームとシュターツカペレ・ドレスデンは1939年にギーゼキングとリュブカ・コレッサというピアニストを起用して二つの協奏曲を録音しています。
当然の事ながら、聞くべきものはギーゼキングと録音した第4番のコンチェルトだと思いました。
だいたいが、リュブカ・コレッサって、誰?と言う感じでしたから。
そして、ギーゼキングと録音したコンチェルトは面白味にはやや欠けるものの立派な演奏であることも事実でした。
しかしながら、その後にリュブカ・コレッサと録音した第3番のコンチェルトを聞いて心底驚いてしまいました。
おそらく、立派なベートーベンではないかも知れないのですが、これほど面白いベートーベンは滅多にあるモノではありません。
ふんわりと軽やかなピアノであり、ベートーベンに対峙したときによく起こりがちな力ずくでねじ伏せるようなおもむきが全くありません。
言葉としてはちょっとおかしいかも知れませんが、まるでベートーベンのコンチェルトまるでショパンのコンチェルトであるかのように響くのです。第2楽章のうたい回しなんかはまさにショパンを連想させます。
そう思って、リュブカ・コレッサの経歴を調べてみると、コレッサはその美貌を讃えられた女性のピアニストだったこと、さらに、彼女の祖母がショパンの孫弟子に当たるピアニストだったことが分かりました。
もっとも、祖母がショパンの孫弟子だったから、彼女のピアノがショパンのように響くというような単純で他愛もない話ではないのですが、それでも、他ではちょっと聞けないタイプのピアノであることは事実です。
しかしながら、1902年に生まれたコレッサは1997年まで長生きしているにもかかわらず、そしてあのブルーノ・ワルターから「one of the most superb pianists of our time.」と称賛されたにもかかわらず、その名前は殆ど忘れ去られてしまっています。
不思議と言えば不思議な話なのですが、それもさらに調べてみれば、1954年に演奏家としての活動から引退してしまっていることが分かりました。
彼女は、その美貌がうたわれたピアニストだけあって幸せで恵まれた結婚をしたようで、その後半生はカナダに移り住んで教育活動に専念したようなのです。
ちなみに、1937年からは活動の拠点をイギリスに移していたので、この録音は特別に彼女を招いて行われたのでしょう。
そして、この録音の翌年には外交官と結婚してカナダに移住してしまいます。
そう言う意味では、これは極めて貴重な録音だと言えます。