ベーム/さまよえるオランダ人序曲/シュターツカペレ・ドレスデン

ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」序曲

カール・ベーム指揮 シュターツカペレ・ドレスデン 1939年録音

ベームとナチスの関係を辿ってみれば面白いエピソードに出会います。
それは戦争が終わってナチスとの関係を問い糾されようとする直前の時期です。

ベームは一人のイギリス人将校の訪問をうけます。
その将校の妻はロンドン交響楽団でハーピストを務めていて、彼自身も音楽への造詣が深く、さらにはベームのことも尊敬していました。
ところが、その将校は応接間に通されたときに、そこで驚愕すべきものに出会ってしまいます。

何と、その応接間には誇らしげにサイン入りのナチス高官の写真がずらりと並べられていたのです。
ベームにとって幸いだったのはその将校がベームのことを音楽家として尊敬していたことで、彼はすぐさまその写真を処分するように助言してくれたことです。

このエピソードから少なくとも二つのことが分かります。

一つめは、ベームという男が驚くほどに政治的には音痴だったと言うことです。
二つめは、ナチスとの関係はかなり濃密だったと言うことです。

おそらく、この度し難いほどの政治音痴とナチスとの濃密な関係は、あのような時代にあっては深く結びつかざるを得なかったのでしょう。
ナチスはベームの音楽的才能を欲し、そのために申し分のない環境を用意しました。そして、ベームの政治音痴は近視眼的にその環境を受け容れたわけです。