ワルター/シューマン:交響曲第4番/ロンドン交響楽団

シューマン:交響曲第4番ニ短調作品120

ブルーノ・ワルター指揮 ロンドン交響楽団 1938年4月26日録音

このロンドン響と録音したシューマンの第4番交響曲は、41年にニューヨーク・フィルと録音した第3番の交響曲と比較するとほとんど話題になることはありません。
しかしながら、そこまで無視されるくらいに意味のない演奏なのかと言えばさにあらず、色々な意味で考えさせられる事の多い興味深いものなのです。

まず、驚かされるのは、ヨーロッパ時代のワルターの演奏とは思えないほどに直線的でかつスッキリとした造形でこのロマン的な交響曲を描ききっている事です。これが、アメリカ亡命後の録音ならばそれほどは驚かないのですが、ヨーロッパ時代にもこのような演奏をしていたというのは意外でした。
しかし、最初の楽章を聞いているうちに、それは直線的でスッキリと言うよりは、どこか怒りのようなものが沸々とわき上がっているように聞こえてくるのです。

ワルターのすばらしいディスコグラフィー “Recorded Performances of Bruno Walter“によると、この録音は1938年4月26日に行われています。
この年の3月にはオーストリアはナチスによって併合され、その混乱の中で娘がナチスに逮捕されるというトラブルに巻き込まれます。そして、この年の夏にはついにフランスの市民権を得てドイツを捨てざるを得なくなるのです。

政治音痴の典型のように言われ、さらには温厚篤実な人柄で知られていたワルターも、この世の理不尽極まる流れの中でさすがに怒りを禁じ得なかったのでしょう。
第1楽章に続く「Romanza: Andante」からは、言いようのない悲しみもあふれているように聞こえます。

また、この録音は1938年に行われているのですが、低域を分厚く慣らした上に音を積み重ねていくワルターの響きがバランス良く収録されていることも付け加えておきます。