ジャック・ティボー /J.S.バッハ:G線上のアリア

J.S.バッハ:G線上のアリア(編曲. ウィルヘルミ)

(Vn)ジャック・ティボー (P)ハロルド・クラックストン 1927年2月14日録音

こういう録音を聞くと、この100年近く、いったい何をやっていたのだろうと思わずにはおれません。
もちろん、歴史は阿呆の画廊ではないのであって、こういうヴァイオリン演奏が「絶滅危惧種」ではなくて完全に「絶滅」した背景にはハイフェッツという「お化け」の存在を無視するわけにはいきません。

あの、研ぎ澄まされたヴァイオリン演奏を一度耳にしてしまえば、こんなのんびりとした音楽をやってる場合ではないと思ってしまうのは当然です。
それに、なんと言っても、このティボーのヴァイオリンは驚くほど音程が低いので、ただでさえのんびりした演奏がさらにのんびりと聞こえてしまいます。

しかし、そうは思いつつも聞き進んでいくうちに、この低い音程はまさにその様な音楽を実現するためには必要不可欠なものであることに気づかされます。そう言えば、あのカザルスは「音程とはあてるものではなくて創造するものだ」と語っていました。
そう思ってみれば、「絶対音感」などと言うものを賢しらに振りかざして、味も素っ気もない演奏をすることがハイフェッツに近づくことだと考えた歴史は、確かに「阿呆の画廊」だったのかも知れません。