クリュイタンス/ラヴェル:スペイン狂詩曲/パリ音楽院管弦楽団

ラヴェル:スペイン狂詩曲

アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団 1951年10月31日録音

クリュイタンスとパリ音楽院管弦楽団によるラヴェル作品の録音と言えば、今も揺るぎないスタンダードとしての地位を保っています。
もちろん、それは60年代のステレオ録音なのですが、クリュイタンスはミンシュにかわってパリ音楽院のオケを引き継いだときにもまとまったラヴェル録音を行っています。

その中でも、前回紹介した「マ・メール・ロワ」や「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、まさにクリュイタンスがミンシュからこのオケを引き継いだばかりの頃の録音でした。
それに対して、この「スペイン狂詩曲」や「ラ・ヴァルス」はそこから少し時期を経た後の録音です。

当然の事ながら、その2年間でオケが飛躍的に上手くなるわけではありませんし、クリュイタンスの指揮もそれを引き締めにかかるわけでもありません。
相も変わらず、ゆったりとした日だまりの中のように音楽を紡ぎ、管楽器は不思議な魅力にあふれた美しい響きを披露してくれています。

おかしな話ですが、こういう平和な状態で聴き手も演奏家も満足できていれば全ては丸く収まっていたのかも知れません。
そして、そう言う平和な村に波乱を引き起こしたのがカラヤンだったのかも知れません。

彼が突然、極上の完成度でとんでもなく美味な品々を提供するようになると、それまでの美味しい田舎料理に満足していた人たちがそれでは我慢できなくなっていったのかも知れません。

今さら言うまでもないことですが、クリュイタンスという人は縦のラインをきちんと揃えて形を整えるようなタイプの指揮者ではありません。
もう少し正確に言えば、相手が要求すれば縦のランが揃うベルリンフィルのようなオケだと然るべき要求を出すのですが、要求しても成果が出そうにもない相手の時には無理はしないのです。
そのあたりは、どんな相手に対しても容赦なく鞭をふるうマルケヴィッチなどとは対極に位置する指揮者だと言えます。(カラヤンはそう言う厄介なオケは最初から相手にはしない!!)

そして、それでほとんどの人が十分に満足していた時代というのは「不幸」だったのでしょうか。
それとも、「変革」というかけ声の下に、ひたすら前へ前へと突き進んでいる今という時代は「幸福」なのでしょうか?

日向で昼寝をするニャンコを見ながら考え込んでしまうのです。