シゲティ/ヴァイオリンソナタ第28番/(P)ニキタ・マガロフ

モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第28番ホ短調 K.304

(Vn)ヨーゼフ・シゲティ (P)ニキタ・マガロフ 1937年録音

さて、この録音はシゲティに焦点を与えるべきかニキタ・マガロフに与えるべきか迷ってしまいます。
マガロフと言えば晩年に完成させたショパンのピアノ曲全集の録音で名を残しています。

「大器晩成」という言葉がありますが、マガロフほどこの言葉が似合う人はいないでしょう。
彼は1912年にロシア貴族(正確にはグルジア貴族だそうですが)の息子としてペテルブルクに生まれ、ロシア革命で亡命を余儀なくされます。そして、パリでイシドール・フィリップからピアノを学ぶのですが、ソリストとしての活動を本格的に行うのは第2次大戦後になってからです。
それでは、戦前は何をやっていたのかと言えば、長きにわたってシゲティの伴奏ピアニストをつとめていたのです。

そして、その縁もあってか、彼はシゲティの娘と結婚をしてジュネーブに居を構えることになります。
マガロフの優雅で美しいピアノは師であるイシドール・フィリップ譲りのものでしょうが、作品の構造やテクスチュアを明晰に描き出していくスタイルは疑いもなくシゲティから学び取ったものでしょう。
そして、このシゲティから学び取ったものがなければ、彼はおそらく「古い世代のピアニスト」として戦後の「晩成」はなかったでしょう。

そう思えば、これもまた貴重な演奏史の一断面だったと言えます。