シューリヒト/田園/ベルリンフィル 1943年録音

ベートーベン:交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」

カール・シューリヒト指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1943年録音

これもまたドイツグラモフォンによるスタジオ録音だと思われます。

調べてみましたが、録音に関する記述がほとんどなくて、ただベルリンフィルによる1943年の録音だと言うことしか分かりません。演奏に関するコメントなどもサイト上ではほとんど見かけません。
シューリヒトに関しては熱心なファンが多くて、彼のことを「爺さん」と書いただけでお叱りのメールをいただくほどなので、それらの人がこの録音に言及していないというのは不思議と言うしかありません。

なぜならば、聞けば分かるように、仰け反ってしまうほどに「録音」がいいのです。
これをブラインドで聞かされて戦時中の43年の録音だと言い当てられる人はいないでしょう。そのクオリティは50年代のモノラル録音全盛期のレベルに達しています。
想像するに、これはワックス盤に刻み込むという従来の方法ではなくて、当時のドイツが開発した最新技術だった磁気テープによって録音されたのではないでしょうか。

そうでなければ、このクオリティはあり得ません。

演奏の方も、古典的均衡を大切にするシューリヒトの美質がよくあらわれています。
それはもう、お化けが出てきそうなフルトヴェングラーの「田園」と較べてみればまさに「真逆」とも言うべき素晴らしい演奏です。もちろん軽すぎるという不満を感じる人もいるでしょうが、音楽は重ければいいというものでもありません。
そして、フルトヴェングラーのようなドラマティックな展開ならば音の悪さはそれほど大きなハンデにはなりませんが、このシューリヒトのように音だけに音楽を語らせるやり方だと録音の良否は決定的だと言うことに気付かされます。

私の独断によれば、これこそがシューリヒトの戦前における最良の姿が刻み込まれた一枚と言えるでしょう。(続く)