カサドシュ/サン=サーンス:ピアノ協奏曲第4番/コンセルトヘボウ管弦楽団 1939年録音

サン=サーンス:ピアノ協奏曲第4番 ハ短調 作品44

(P)ロベール・カサドシュ ピエール・モントゥー指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1939年10月12日録音

ナチスの影が忍び寄る中でこのメンツによるこの作品を定期公演で取り上げていたというのは、コンセルトヘボウのオケもなかなかに骨があったと言うことでしょうか。
そう言えば、ドイツでは演奏禁止になっていたマーラーの「大地の歌」をユダヤ人歌手の「ケルステン・トルボルイ」を招いて演奏したのはこの直前の10月5日でした。

その時は、最後の楽章でナチスシンパと見られる女性の声が会場を貫きました。

1939年と言えば9月1日にドイツがポーランドに侵攻したことに対してイギリスとフランスが宣戦布告を行って第2次大戦が始まるのですが、両者の間では戦闘行為は始まらずに微妙な緊張状態が続いているときです。
オランダにしてみれば、ポーランドの次にいつ自分たちがターゲットになってもおかしくない状況下で、フランス人作曲家の作品を、フランス人のピアニストとフランス人の指揮者を招いて演奏会を行ったわけです。

この1週間前にはナチスシンパによる「テロ予告」と言ってもいい嫌がらせがあったわけですから、おそらくはこの演奏会もかなりの緊張感の中で行われたものと思われます。
そのせいでもないでしょうか、最初はなかなか洒落た感じで始まったカサドシュのピアノも、音楽が進むにつれて妙に緊張感が増していて、やけに立派な音楽になってしまっています。

その意味では、これもまた「時代」が生み出した希有の名演といえるのかもしれません。