ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
(P)パウル・ウィトゲンシュタイン ブルーノ・ワルター指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1937年2月28日録音
よく知られているように、この作品をラヴェルに依頼したピアニストは、パウル・ウィトゲンシュタインです。
彼は戦争で右腕を失ったために、当初は普通の協奏曲を左手だけで演奏できるように編曲して演奏会を開いていたのですが、やがては有名な作曲家に「左手のための協奏曲」を依頼するようになります。
そして、彼が依頼をしたのはラヴェルだけでなく、リヒャルト・シュトラウス、ブリテン、ヒンデミット、プロコフィエフ等という錚錚たるメンバーでした。
しかしながら、そうやって作られた作品の中で、今もよく演奏されるのはこのラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」くらいです。
その事はあらためて、ラヴェルという人が生粋の音楽職人だったことに気づかされます。
職人というのは、依頼主の依頼に応えて、その枠の中でこそ才能を発揮する存在です。
何でもいいですから、あなたの好きなようにご自由に・・・といわれるよりは、細かく仕様を決められた中で、その「限定された不自由」さの中でこそ、才能を自由に羽ばたかせることのできる人だったように思います。
そんなラヴェルとにとって、戦争で右腕を失ったピアニストから「左手だけで演奏できる協奏曲を書いてください」というのは、まさにど真ん中のストレートともいうべき依頼だったでしょう。
ラヴェルこそは、限定された不自由さの中でこそ自由に羽ばたくことのできる音楽家だったのだと思います。
この録音はそんなウィトゲンシュタイン自身による貴重な演奏です。
指揮者がブルーノ・ワルター、オーケストラもコンセルトヘボウという豪華さで、花を添えています。