ベートーベン:劇音楽「エグモント」序曲 Op. 84
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1939年11月18日録音
この貧しい録音ではその日の演奏の凄みは半分も捉え切れていないと思われます。冒頭に混ざるノイズも耳障りですが、それでも、NBC交響楽団の自分の思うがままにコンとロースするトスカニーニの手腕の見事さは十分に伝わってきます。
そして、トスカニーニの「原典尊重」という金看板の本当の姿もここにははっきりと刻まれています。
結局、スコアというのは不十分なものです。
ですから、その不十分なスコアを実際の音に変換する過程ではどうしても「解釈」が必要です。その「解釈」の過程で彼は恣意的にスコアを改変する事を否定したのであって、決してスコアを機械的に音に変換したのではなかったのです。
ですから、そこにはトスカニーニの強烈な自己主張が貫かれています。
テンポ設定一つをとっても細かく動かしているかと思えば、強烈にインテンポを維持することで音楽の劇的な性格を際だたせていたりもします。
この演奏をライブで聴いた人の感動はいかばかりだったかと、心底羨ましくなります。