トスカニーニ/「フィデリオ」序曲

ベートーベン:歌劇「フィデリオ」序曲 Op.72

アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1939年10月28日録音

おそらく、この録音が1939年のベートーベン・チクルスの冒頭を飾ったのではないでしょうか。
冒頭二つの休止符がやけに長いように感じたのですが、スコアを確認すると四分休符と二分休符が書いてあって、二分休符の上にフェルマータが記されています。それでも長すぎるだろうと思うのですが、考えてみればフェルマータは長く伸ばすという意味だけでなく、もともとは「止まる」という意味もあったそうです。

ここでは、トスカニーニは「止まる」という解釈を与えたようです。それは、この冒頭の「Allegro」が続く「Adagio」につながるためには一度立ち止まる必要があると考えたものと思われます。

トスカニーニと言えば「原典尊重」が看板なのですが、スコアは改変しなくても(改変しているところもかなりあるそうです)、その解釈はかなり強い自己主張が貫かれています。
そして、このフィデリオの序曲には、そう言うスタイルでベートーベンの交響曲も演奏していくんだという宣言のようなモノを感じてしまいます。

しかし、他の指揮者の録音も聞いてみると、結構「止まって」いる人が多いようです。ただし、その前のフレーズの最後の音符はもう少し自然に響かせているので、体感的には短く感じます。
このフレーズの最後を短めに切り上げて突き進んでいくのがこの時のスタイルだったのか、それとも残響に乏しい8Hスタジオのせいなのかは判断しかねますが、おそらくは両方の合わせ技の結果かもしれません。