ワルター/モーツァルト:交響曲第38番

モーツァルト:交響曲第38番 ニ長調 K.504「Prague」

ブルーノ・ワルター指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1936年12月18日録音

30年代という古い録音でも、スタジオできちんと録音されて保存状態がよければ非常にクオリティの高い音を聞かせてくれます。
それが、第2次大戦に突入すると、そこまで手間をかけて録音も出来なくなったのか、一般論として言えば逆にクオリティが下がります。

もちろん例外もあります。
ナチス・ドイツのように国威発揚のためにテープ録音の技術を磨き上げて驚くほどのクオリティを実現したものもあります。
しかし、一般論として言えば、平和だった30年代の方が戦争の混乱に巻き込まれた40年代よりも録音のクオリティが高いようです。

そんなクオリティの高い30年代の録音の中でも、このワルター&ウィーンフィルによる「プラハ」の録音はトップレベルのクオリティと言っていいでしょう。
そして、そう言う録音のおかげで細部の見通しも良いので、意外なほどスッキリとした造形のモーツァルトに聞こえます。

戦前のワルターと言えばどこか崩れた雰囲気を醸し出すのが持ち味かと思っていたのですが、これはちょっと意外な感じがする録音でした。
ワルターはその後アメリカに亡命するとガラッと芸風を変えて男性的な表現を変えたと言われるのですが、こういう録音を聞くと、その根っこはヨーロッパ時代からすでにあったことに気づかされます。

ただし、歌うべきところではしっかり歌っていますし、その歌はとある評論家の言い方を真似るならば、「渺々たる風に吹き付けられて、寂しさの限り」なのです。
とは言え、ちょっと整いすぎていて、戦前のワルターに期待したものとは少し違うことも事実です。