ハイフェッツ/ヴィエニャフスキ:ヴァイオリン協奏曲第2番

ヴィエニャフスキ:ヴァイオリン協奏曲 第2番 ニ短調 Op.22

(Vn)ヤッシャ・ハイフェッツ:ジョン・バルビローリ 指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1935年3月18日録音

人は老います。
しつこいほど繰り返しますが、これは覆しようのない真実であり、それ故に年を重ねるにつれて芸に深みを増していくというのは幻想以外の何ものもでありません。一切の思いこみや贔屓目を排して眺めてみれば、そこにあるのは上昇曲線を描いて駆け上がっていく時期と、そこから緩やかに、そして人によっては急激な下降線を描いて下っていく時期に二分されます。

それが自分では音を出さない指揮者ならまだしも、肉体的要因が大きなウェイトを占めるソリストの場合はその二分法は残酷なまでに明瞭です。
しかし、中にはその下降曲線が驚くほどに緩やかな人というのは存在します。そう言う希有な存在の一人がこのハイフェッツでした。

ハイフェッツは10才の時(1911年)にはじめてリサイタルを開き、71才の時(1972年)に最後の演奏会を終えるまで、60年にわたって聴衆の前に立ち続けました。
その60年間にわたって、カーネギー・ホールでのアメリカデビューの時に「16歳の少年ヴァイオリニストの演奏は、栄えある歴史を持つこのホールにおいても、いまだかつて聴くことが出来なかったほどの、おそるべき技術と音楽性の高さをまざまざと見せ付けてくれた」と絶賛された過去を辱めるような姿は絶対に見せなかったのです。

その背景には鋼のような強さと厳しさで己を律し続けた生き方があったことを多くの人が指摘しています。
しかし、それでもなお、頂点を目指して駆け上がっていく時期のまぶしさはかけがえのないものです。

そんなまぶしさが、ともに30代だったバルビローリとのコンビで録音したコンチェルトには刻み込まれています。