メニューヒン/エルガー:ヴァイオリン協奏曲

エドワルド・エルガー:ヴァイオリン協奏曲 ロ短調 作品61

(Vn)イェフディ・メニューヒン:エドワルド・エルガー指揮 ロンドン交響楽団 1932年6月14日~15日録音

これが1932年の録音と俄には信じがたいほどの優れた録音のクオリティです。
どういう仕掛けがあるのか、こういうSP盤の時代の録音というものは高域の伸びには限界があるので、楽器の美味しい部分はすくい取れていても、どこ天井に頭が使えるような窮屈な感じは否めません。
ところが、この録音にはその様な窮屈な感じが希薄であり、だからといって、無理に上下に伸ばすことで楽器の質感が犠牲にもなっていません。

いや、それどころか、16才とは思えないメニューヒンのテクニックだけではなくて、エルガーの音楽には必須の柔らかくて暖かい音色も見事に捉えられています。

聞くところによると、この録音は作品の献呈者であるクライスラーによって録音されるはずだったようなのですが、何かの都合で(この世界ではよくある話)予定が合わなくなり、急遽16才のメニューヒンが起用されたらしいのです。
ですから、かなりの万全の準備で録音に臨む手筈は整っていたのかもしれません。

それから面白いエピソードとして伝わっているのは、いかに神童の呼び声が高かったメニューヒンといえども僅か16才という事で、事前にメニューヒンの前で演奏することになったらしいのですが、メニューヒンの演奏を少し聴いただけでエルガーは「OK」を出して、さっさと競馬場に行ってしまったそうです。
そして、結果としてこのような素晴らしい演奏が刻み込まれることになりました。

それにしても、エルガーの音楽というのは不思議な特質を持っているようです。

チェロ協奏曲ではほんの18才の小娘がソリストをつとめた録音が未だに決定盤であり、このバイオリン協奏曲では16才のはな垂れ小僧の録音が未だに存在価値を失っていないのです。
いや、存在価値を失っていないどころか、今もってこれを決定盤とする人も多いのです。
エルガーの音楽には、そう言う若さゆえの特性がなければ捉えきれない何かがあるのかもしれません。