クナッパーツブッシュ/エロイカ

ベートーベン:交響曲第3番 変ホ長調 作品55 「英雄」

ハンス・クナッパーツブッシュ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1943年3月31日~4月1日録音

クナッパーツブッシュはこの年に55才を迎えます。気力、体力ともに充実していたことはこの録音からもはっきり伺えます。
おかしな「崩し」もなく、実に引き締まった見事なエロイカがここにあります。

しかし、考えてみればこの年はナチスが政権を獲得してから10年に当たる節目の年であり、この年の1月にはエリー・ナイ(確信犯)やカール・ベームとともに戦時勲功十字賞を受賞しています。

広く知られているように、ヒットラーはクナを嫌っていましたし、クナもまたヒットラーを嫌っていました。にもかかわらず彼にナチスから勲章が贈られたのです。

それは、フルトヴェングラーがなかなか意のままにならない状況で、それに変わりうる「巨匠」と言えば彼しかいなかったからです。
ですから、ヒットラーの誕生記念のコンサートでベートーベンの第9を振るという仕事は常に彼に回ってきました。スペイン・ポルトガルという「友好国」へのベルリンフィルのコンサート・ツアーも彼の仕事と言うことになっていました。
それでも、彼はヒトラーへの嫌悪感を隠そうとはしなかったのですが、そう言う微妙な均衡の中で彼の音楽活動は続けられて、勲章が贈られたわけです。

考えてみれば、クナッパーツブッシュにとって40代半ばから60才を目前にした10数年間はナチス政権下という「忌むべき」状況下での音楽活動であったわけです。
本当であれば、もっとも実り豊かな仕事が出来る時であっただけに無念と言えば無念なのですが、それはまたフルトヴェングラーもまた同じだったわけです。

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