ジュゼッペ・ガセッタ/パガニーニ:24の奇想曲

パガニーニ:24の奇想曲 Op.1

(Vn)ジュゼッペ・ガセッタ:1931年録音

化石音源として発掘するのに最も相応しい音源なのでしょうが、あらためて聞き直してみて一抹の疑惑が拭いきれません。

「ジュゼッペ・ガセッタ」という名前を聞いてどのようなヴァイオリニストなのか思い出せる人は殆どいないでしょう。

イタリアの深夜番組で突然パガニーニ直系の唯一のヴァイオリニストとして紹介された人物です。
系譜を辿ってみれば、パガニーニには弟子としてただひとり、カミーロ・シヴォリという人がいて、そのシヴォリにはフランチェスコ・スフィリオという弟子がいました。
ここまでは間違いありません。

そしてそのスフィリオにも弟子がいて、それがこのジュゼッペ・ガセッタだというのです。そして、その若い時代にはハイフェッツなどからも絶賛された前途有望なヴァイオリニストだったのが、第2次大戦で夢が絶たれたという話が付け加わります。
そして、そのガゼッタが自宅の書庫を整理していて70年前の自分の録音を発見したのが、この1931年録音のカプリースだというのです。

非常によくできた話ですが、話というのはできすぎていると怪しいものです。
ヴァイオリン関係のサイトでは、どのような系譜も残さなかったパガニーニの演奏の真実の姿が現在に蘇ったと絶賛している人が多い中で喧嘩を売るような物言いになって申し訳ないのですが、それも含めてあまりにも話が出来すぎてるのです。

確かに、同時代のハイフェッツやメニューヒンのポルタメントををかけまくった演奏とは別次元の演奏です。そして、それ故に、そこに「パガニーニの真実の姿」を見るのです。
ただ、私が疑問を感じるのは、これは蝋管に直接刻み込むシリンダ録音にしては音が良すぎるという一点に尽きます。

もちろん、この蝋管に刻みつけるシリンダ録音の音質は私たちが想像する以上に高音質であったことは確認しておく必要がありますが、70年以上も存在を忘れられるような保存のされ方をされていてここまで劣化がないことに疑問を感じるのです。
もしかしたら、腕の立つ若手のヴァイオリニストに演奏をさせて、それを適当に劣化させて「幻の録音」として売り出したのではないかという疑念は拭いきれません。

とは言え、最後に判断するのはそれぞれの聞き手でしょうから、その様な私なりの「保留判断」を付与した上で公開したいと思います。