(P)リリー・クラウス (Vn)シモン・ゴールドベルク:モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第25番

モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第25番 ト長調 K.301(293a)

(P)リリー・クラウス (Vn)シモン・ゴールドベルク 1937年4月20日~21日録音

モーツァルトが本当の意味でヴァイオリンソナタの作曲に着手するのは就職先を求めて母と一緒にマンハイムからパリへと旅行したときです。このとき、モーツァルトはマンハイムにおいてシュスターという人物が作曲した6曲のヴァイオリンソナタに出会います。モーツァルトはこのときの感想を姉のナンネルに書き送ってます。
「わたしはこれらを、この地ですでに何度も弾きました。悪くありません。」

「悪くありません。」
この一言がモーツァルトから発せられるとは何という賛辞!!

残念なことに、モーツァルトを感心させたシュスターの作品がどのようなものかは現在に伝わっていません。しかし、それらの作品が、従来のピアノが「主」でヴァイオリンが「従」であるという慣例を打ち破り、その両者が「主従」の関係を交替しながら音楽を作り上げていくという「交替の原理」にもとづくものであったことは間違いありません。

モーツァルトは旅費を工面するために引き受けたド・ジャンからのフルート作品の作曲にうんざりしながら、その合間を縫ってヴァイオリンソナタを作曲します。このうちの5曲(K.301・K.302・K.303・K.305・K.296)はマンハイムで完成し、残りの2曲(K.304、K.306)はパリへ移動してから完成されたと言われています。
そして、K.301~K.306の6曲はプファルツの選帝候妃に作品番号1として、そしてK.296はマンハイムで世話になった宿の主人の愛らしい娘、テレーゼ・ピエロンに捧げられています。
私たちが、モーツァルトのヴァイオリンソナタとしてよく耳にするのはこれ以降の作品です。

モーツァルトは選帝候妃に捧げた作品番号1の6曲について、明確に「ピアノとヴァイオリンのための二重奏曲」と述べています。
そして、あまりにも有名なホ短調ソナタを聴くときに、何かをきっかけとして一気に飛躍していくモーツァルトの姿を見いだすのです。

そこでは、ピアノとヴァイオリンはただ単に交替するだけでなく、この二つの楽器が密接に絡み合いながら人間の奥底に眠る深い感情を語り始めるのです。
アインシュタインが指摘しているように、「やがてベートーベンが開くにいたる、あの不気味な戸口をたたいている」のです。

さらに、作品番号1の最後を飾るK.306と愛らしいピエロンのためのK.296は、当時のヴァイオリンソナタの通例を破って3楽章構成になっています。
このK.296は第2楽章がクリスティアン・バッハのアリア「甘いそよ風」による変奏曲になっていて、実に親しみやすい作品です。

また、K.306の方は、K.304のホ短調ソナタとは打って変わって、華やかな演奏効果にあふれたコンチェルト・ソナタに仕上がっています。

ヴァイオリンソナタ第25番 ト長調 K.301(293a)

  1. 第1楽章:Allegro con Spirito
  2. 第2楽章:Allegro